ご挨拶
福寿は、内科の診療所である医療法人健真会はぶ医院を母体としてできた介護事業所であり、高齢者住宅、デイサービス、訪問介護事業所、ケアプランセンターの4つから成ります。福寿は、医療法人の造る介護施設であり、従来の介護施設とは異なる新しい介護システムにしたいと考えています。通常、介護施設は、高齢者のお世話をするところと考えがちです。しかし、私たちは、そこに留まりたくないと考えています。人は、医学的には120歳まで生きることが出来ます。二十歳を過ぎると、クレアチニンクリアランスで表現される腎機能や、1秒に吐くことのできる呼吸量である1秒量は少しづつ低下し、120歳になると、何も病気を発症しなくても酸素吸入や人工透析をしないと生きていけないところまで低下します。また、脳内のドーパミンは加齢とともに徐々に減少し、120歳まで生きると、疾患がなくてもパーキンソン病と同じ状態になってしまいます。しかし、逆に言えば、良い生活習慣と最新の医療により百歳ぐらいまでは、元気に過ごせると考えられます。
医学は、時代と共にアート(芸術)からサイエンス(科学)へと進化しました。それにより、一部の名医が経験的におこなっていた治療が、誰でも勉強さえすれば実現できるようになりました。私達は、介護も医療と同様、サイエンスにしたいと考えています。福寿というシステムの中では、デイサービス、訪問介護、訪問看護などが単独で存在するものではありません。高齢者の寝たきりの原因として最も多いのは、脳卒中であり、次が骨折です。脳卒中は、高血圧や糖尿を原因として発生しますから、これらの疾患を内科的にきっちり治療しておくことが大切です。骨折の予防には、骨密度を測定し骨粗鬆症があればその治療をしておくことにより、骨折を半分以下に減らすことが出来ます。しかし、下肢筋力による転倒のための骨折は、お薬だけでは予防できません。福寿では、デイサービスや高齢者住宅に、看護師や作業療法士などの医療資格を持ったスタッフを配置することにより、その人の筋力やバランス能力を評価し、その評価に応じた能力やバランス力を高める運動を行っています。筋力の低下した人にとって、寝たきりを予防する上で、最も大切なことは、立位をとることです。このため、筋力が低下してきていると診断した人に対しては、訪問介護時においても、できるだけ座位や立位になって頂くことに気を配っています。
高齢者は、なぜ亡くなるのでしょうか。1位は癌、2位は心筋梗塞です。3位は肺炎です。最近、高齢者の肺炎による死亡が増えており、90歳以上の男性の死亡の第1位は、癌でも脳卒中でもなく肺炎です。しかし、高齢者は、外から感染して肺炎で亡くなる訳ではありません。高齢者の死亡原因となる肺炎の大部分は、誤嚥性肺炎と言われ、自分の口腔内の細菌を睡眠中や食事中に誤嚥することによって、肺炎を発症します。誤嚥性肺炎による死亡は、食後や睡眠前の口腔ケアによって、発症が減少します。福寿では、食事前に口腔体操をおこなうよう指導し、デイサービスでは、必ず、歌を唄う時間をもうけています。誤嚥をし易い利用者様に対しては、看護師が食事介助をおこない、きっちりと口を閉じて嚥下をして頂く練習をします。嚥下時の頭の角度、足の状態などにも細かく気を配ります。また、発熱などの肺炎の再発兆候がある場合には、すばやく対処し早期に抗生剤を処方します。その結果、肺炎で入院した病院で、胃ろう(胃に穴をあけてチューブで栄養を入れる)をしないと、早晩、肺炎を再発しますよと言われて退院した患者様が、その後、入院することなく元気に食事を続けておられることも福寿では、めずらしくありません。これが、福寿が目指す医療と介護を一体とした福寿システムです。
福寿は、内科クリニックが経営していますが、病院のようにお薬で治療するための組織であるだけでなく、お薬を減らすための組織でもあります。誤嚥を頻回に起こしている患者様や昼間からぼーっとして転倒しそうになっている患者様の中には、睡眠薬や抗精神薬が原因である人が多数います。そして、残念なことに、その睡眠薬の投与は、入院中に医療機関によって開始されていることが多々あります。抗精神薬や睡眠薬は、転倒や誤嚥の原因になるため、私たちは極力使用しないように努めています。また、世間では、誤解もありますが、アリセプトなどの認知症の薬は、認知症を根本的に治す薬ではありません。もちろん、認知症の薬を使用することにより、閉じこもりのような状態になっている高齢者が積極的になり、元気になる姿をしばしば経験します。しかし、その一方、お薬により、余計に興奮し徘徊がひどくなる場合もあります。福寿での認知症などのお薬の投与の基準は、あくまでも、利用者様が自分を取り戻すことができるかどうかというところにあります。閉じこもりの状態の利用者様が、アリセプトで積極的になられ、デイサービスで脳トレをおこなうことによりさらに元気になられる姿を拝見することもめずらしくなく、このような医療と介護を組み合わせた治療を私達はおこなっています。福寿は平成21年にオープンしました。当時は、介護施設と言えば、山の中にある特別養護老人ホームが主体でした。しかし、高齢者を山の中に隔離しても、高齢者を生かすことにはなりません。私達は、河内長野駅近くに福寿をオープンしました。福寿の究極の目的は、利用者様が再び元気になって自宅へ帰って頂くことです。その目的のため、私達は今日も工夫を重ねています。